原体験コラム集

126、「透明人間への第一歩」


 透明人間といえば、私たちの世代はウエールズの小説「透明人間」や平家物語に関わる小泉八雲の「耳なし芳一」の怪談を思い、もう少し若い世代なら、おとぎ話の「テングの隠れみの」あたりを思い浮かべることでしょう。“自分の姿は他人に見えず、しかも自分は自在に見える“という透明人間願望は、古今東西、時間を超えて共通のようです。

 これまで透明人間は、例え理論的には可能でも実際の科学技術での実現は無理とされてきました。けれども、科学雑誌「サイエンス」(2006・10・19発行)に、英米の学者が透明人間実現への第一歩とも言える研究を発表しました。これは、可視光ではなく電磁波を用い、特殊な微細構造の金属素材で「もの」を覆うと、電磁波を反射させずに「もの」の裏側に迂回させることができるというものです。具体的には、直径10センチぐらいの銅製の円筒をこの素材で覆い、これに電磁波を当てたところ反射を大幅に抑えることができたというものです。「もの」がそこにあることを認識するためには、「もの」からの光の反射があり、さらに、「もの」を見るためには、その光を網膜で捉えなければなりません。言い換えれば、表面に光が当たらずに完全に裏側に迂回させることができるなら、そこに「もの」は存在しないように見えます。この研究が進めば、完全でないまでも例えばレーダー網から逃れることもできるでしょう。軍事目的を見据えた利用が真っ先に考えられ、それ以外でも、善意の目的でなく悪いことに利用されるのがオチでしょう。おとぎ話のような夢物語で終わるとは思えません。もっとも、光の迂回に成功して自分の姿が人に見えないようになったとしても、次の段階、透明な体で相手を見ることができるようにするためには、超えなければならない厚い厚い壁があります。

 言うまでもなく、その厚い壁とは“何らかのかたちで光をキャッチしないと「もの」を認識することができない”という壁です。前述したように、生物がものを認識するためには光を吸収しなくてはなりません。ミドリムシやクラゲのような透明に見える生物でも、光を感知する部分は赤や黒などに着色されています。透明人間は、夢のまた夢、さらにその先の夢のようです。


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