原体験教育研究会
「原体験だより」巻頭・宮下繁編
「原体験教育研究会」の前身は「うれしの台教材開発研究会」でした。そこでは、「うれしの方式」という実験・観察を通して行う、モジュール的な教材開発を行っておりました。うれしの方式は、生物体をモデルにしたもので、細胞が集まって組織をつくり、組織が集まって器官をつくり、さらに器官系、そして個体をつくるといった構造を考えたものです、細胞に相当する教材は、一枚の実験・観察のワークシートで、同じようなシートを集め、ユニットとして、これをいくつか組み合わせることによって、器官が一つのはたらきを有するように、一つのまとまった単元としたものです。これは、実際に小・中学校で試行し、それなりの評価を得ることができました。しかし、この教材を試行してみて、子どもたちに観察・実験以前の体験が欠けていることに気づきました。そこで、栽培や飼育を基礎体験、それ以前の体験を原体験として、この基盤である原体験を考えてみようということで、名称も原体験研究会あるいは原体験教材開発研究会としてスタートしました。現在は「原体験教育研究会」となっています、当初は原体験とは何かという定義づけと原体験の方法について検討がなされました、この過程で、原体験は五重塔の中心柱を支えるバラストのようなものであること、そしてこの体験はまず自然物を対象として、触・臭・味の墓本感覚を伴った五官による直接体験であること、そして、その方法は子どもが主体的に体験することができるような場づくりであることなど、いくつかの共通理解が得られました。自然物としては、文化の歴史を考え、火・石・土・水・木・草および動物の七つとし、これに、暗やみ、飢え、渇きなど情感や意欲に関わる体験を加えました。これは物ではないのでゼロ体験としました。そして、体験する場合には、触・臭・味・視・聴などそれぞれの感覚を意識して、どの体験にも触・臭・味の基本感覚のいずれか一つを伴うよう配慮しました。五官のうち、触・臭・味は下等な生物も有する基本的な感覚で、これを伴うと一回の体験でも長期記億となって残ることが知られています、視・聴は、生存のためにはアクセサリー感覚ですが、ふつうにはこの二つの感覚に最もたよっているのでこれらを無視することはできません、自然物にふれたり、採(摘)って食べたり、何か作って遊んだりすることを原体験と位置づけています、しかし、現在は科学・技術が発達し、かつての自然物と同様に身近に科学・技術の産物がみられるようになっています。そこで、これらの科学・技術にふれることも、科学原体験としてこのカテゴリーに入れています、科学の祭典や科学体験まつりには、自然にふれて親しむ体験と科学・技術にふれて親しむ体験とを並行して共に行っています。原体験は現在の学校教育の評価の対象外の体験ですが、この豊富な原体験や基礎体験は感性の育成にもつながり、学習への興味づけとなり、後の学習で認識の深化や理解につながっていきます。原体験は基礎体験学習、実験・観察学習、さらに探究学習へと通じているものです。しかし、原体験そのものも評価しています。体験の蓄積は知恵であります。知識だけでは生きる力とはなりませんが、知恵は生きる力になるものです。したがって、研究会では体験そのものだけに興味を示す人も含めて会合を開いています。どなたでもどうぞ自由に参加して下さい。子ざもにも開放している自由な集まりです。
兵庫教育大学教授(当時) 山田卓三