「おおっ、虹色のUFOやなあ!」。テーブルを囲んだ人たちから歓声が上がった。輪の中心ではコンパクトディスク(CD)十二枚を張り付けた板が、くるくる回っていた。真上から懐中電灯の光をあてると、キラキラしているだけだったCDの反射面が立体的に盛り上がり、七色に輝く円盤群が出現して見えたのだ。
 人間の目は、右と左の網膜の像がわずかにずれている。そして、人間は二つの映像を脳の視覚中枢で再構成することで立体を感じている。これを「両眼視差」と呼ぶ。実験では、その視差を利用し、回転するCDからの反射光が連続して両目にはいることで立体的な残像が生まれる。写真でとらえるとCDが回っているに過ぎないが、人には虹色のUFOに見えるのだ。   

 兵庫教育大学(兵庫県社町)自然棟五階の物理実験室で、毎週金曜夜に開かれる「原体験教育研究会」の例会。会員たちは試作した器具を持ち寄り、安全に実験が行えるかどうか、インターネットの「科学実験データベース」に登録するにふさわしいかどうかを検討する。
コンパクトディスクをUFOに見せる実験を楽しそうに行う「原体験教育研究会」のメンバーたち(兵庫県社町の兵庫教育大学で)→            
 「面白いかどうかが決め手。科学的な意義付けや体系化は必要ですが、あまり意識しすぎないようにしています」。代表幹事の兵庫県立神戸高塚高校教諭の泉伸一さん(49)は実験を考案する際の秘けつを語る。実験には、それを試みる子どもや若者たちをひきつける魅力や驚きがなければならない。つまり、面白い方がよいのだ。
 12月14日の主役は、使い古しの換気扇を再利用した回転装置だった。金網の筒で囲った中で燃料に着火して回し、きれいな炎の竜巻を起こした。集まった約十人のメンバーからは改良へのアイデアが次々に出され、話し合いは深夜に及んだ。
 自然にあるものに触れ、においをかぐ。また、自然物でものを作り、遊ぶ。こうした「原体験」を幼い頃から経験しておかないと、学校で習ったり本を読んだりして得た知識や情報が、生きた知恵として身につかないのではないか−。それが研究発足の動機で、ネット上でのデータベースの作成は、誰もが気軽に実験のヒントを得てもらうことが大きな狙いだ。
 現在は”試運転中”で、約一千件を登録。危険性のあるものなどを排除し、三百件くらいに整理して来春から本格的に運用する予定だ。
 ホームページにアクセスしてゲストとしてデータベースをのぞいてみた。テーマや使用材料だけでなく、対象年齢、難易度などでも検索でき、分野や内容は多岐にわたる。
http://homepage2.nifty.com/koku/gentaikenhome.htm データベース1000件登録 テーマや難易度検索
@・・・1980年代半ば、兵庫教育大学生物学研究室教授だった山田卓三さんを中心に発足した生物教材の研究グループが前身。現在の名称になったのは95年から。岡山や山口などにも地方会を持つ全国組織で、会員は約100人。同大学OBが中心だが、教員に限らず会社員や主婦、学生など様々な人々が集う。
@・・・理科にとどまらず、数学や国語といった教育全般に通じる「原体験」を子どもたちに
実感させようと、各種の活動を行っている。「自然体験や失敗することを通じ、自分で考え、対処する力を養わせたい」(山田さん)。
 @・・・科学体験データベース日本科学協会との共同事業で、96年頃から作業を開始。幼稚園児から高校生以上まで、幅広い年代層がそれぞれに科学に親しめる実験を目指している。会員らが和気あいあいと話し合いながら、実験方法を確立していく過程がうかがえる。
   「ヘビやカエルといった小動物に触れてみよう」というシンプルなものもあった。「今の子どもは両生類やは虫類に触れた経験がほとんどない。ヘビは夏はひんやりしていて、自分より体温が低い。変温動物であると実感できるわけです」と意図を説明する。
 研究会を主宰する山田卓三・名古屋芸術大学教授(兵庫教育大学名誉教授)(68)は「インターネットは魚釣りで言う餌まき。家にある材料でもできる、面白そうな実験が紹介されていれば、自分でもやってみたいと思うでしょう」と話す。
 日本は、ますます「原体験」を得るのが困難な環境に進みそうだ。インターネットの世界こそ仮想現実の最たるものであり、、そういう意味では「原体験」の対局なのではないか−。そういう問題提起もできようが、インターネットは体験不足を補う手段ともなりうるのだ。(木下聡)


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