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サトイモの葉の水玉 その2

サトイモの葉の水玉 その2

 初めてサトイモの葉の水玉の美しさに心を奪われたのは小学生のときでした。  祖母の草刈りの手伝いをしていたのですが、急な夕立で、一人、帰路に着きました。自宅に着く頃には雨も上がり、太陽の光が眩しいほどです。隣家の畑には、雨に洗われたサトイモの葉の上に大小の水玉が残り、太陽の光にキラキラ輝いていました。なぜ、そんなことを思いついたのか今でも分からないのですが、私は手にしていた草刈りガマで、サトイモの茎を横殴りに一つ切ってみました。スパン!心地よい音と共に葉がクルクルと宙を舞い、水玉が飛び散り、そこに陽の光が当たって、それはそれは美しい情景です。夢見心地で次々と葉を切っていき、いつの間にか、畑の半分以上を茎だけのサトイモが占めていましたが、私は大満足。子ども心に、サトイモは地下茎を食べるので、葉が重要だとは思いもしなかったのです。  ところが、しばらくして畑の持ち主が、とんでもない形相で、語気荒く、「サトイモの葉を切ったのは○○ちゃんか!」と、私に問いただしました。*○○ちゃんは、私でなく近所のイタズラばかりしている別人の名前でした。あまりの彼女の剣幕に圧倒され、私は思わず頷きました。途端に、罪悪感と大きな不安感でいっぱいになった私は逃げ帰り、涙ながらに母に事情を話しました。  母は無言で私の手を引き、すぐさま隣家に謝りに行きました。翌日、学校を休んで母と二人でサトイモを植え直しました。作業の途中、昨日激怒させた隣人が、お茶とお菓子を手にし「ご苦労さんやね」と労ってくださいました。大人になった今では、植え直したサトイモが収穫に足るまでには育たないと知っていますが、子どもの私は、大それた失敗の償いが済んだことで、心底ホッとして、それ以外のことを考えもしませんでした。大人たちの間で、どういうやりとりがあったのか、植え直したサトイモがどうなったのか覚えてもいないのです。けれども、あのとき、雨上がりの青空にキラキラ輝いていた水玉の美しさは、遠い日の宝物となりました。Ane

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