原体験コラム一覧
科学実験データ一覧

強くてやさしい大和撫子 「カバキコマチグモ」

強くてやさしい大和撫子 「カバキコマチグモ」

 ススキの葉が、まるで、ミニミニサイズのチマキのように、くるんと巻かれたものを見たことはありませんか?これは、メスのカバキコマチグモが糸で綴った巣です。産卵期の6月〜9月頃、メスは、日中は、この巣の中に潜み、夜は抜け出して昆虫などを捕食します。また、巣の中は二部屋に分割され、一方は100個ほどの卵の部屋、もう一方が母グモの部屋です。  ところで、カバキコマチグモを漢字表記すると「樺黄小町蜘蛛」、樺黄とは赤みがかった黄色です。また、小町は、もちろん、平安時代の美女、小野小町のことですから、カバキコマチグモは、赤みがかった黄色の美しいクモということになります。名前だけなら、楚々としたイメージですが、とんでもない!危険を察知すると即座に咬みます。体長1.5cm前後の小さなクモなのに、体の三分の一はあろうかという大きく真っ黒な顎と牙を持ち、容赦なく襲いかかります。産卵期のメスは、子どもを守るために神経を尖らせているからです。  カバキコマチグモは咬むと同時に毒を注入しますから、たまったものではありません。毒の強さは、世界の猛毒生物ランキング6位です。幸い、体が小さいので毒の量が少なく、死に至る例は、ほとんどありません。もっとも、咬まれたときの激痛、その後の疼痛ときたら、会話もままならないほどなんです。なぜわかるかって?わかるんです。私も咬まれた当事者ですから。あれは8月末でしたか、旅行中、ススキの繁った山間の道を友人たちと散歩中のこと。靴の中に入った小石を取るために靴を脱ぎ、次に足を入れた途端に、ズキッと、まるで針で抉られたような痛み。親指の付け根あたりでしたが、その後は、疼くような痛みのために足裏全体をつくことができません。踵だけをついて残りの道を歩きました。咬まれた時刻は夕方5時頃。おそらく、捕食のために外に出たカバキコマチグモの標的になったようです。その夜は言うまでもありません。ズキズキする痛みは、全く収まる気配がなく、友人たちとの会話も上の空。痛みと痺れで眠れないまま朝を迎えました。結局、少しは楽になったかなと思えたのは翌日のお昼すぎ。本当に辛い時間でした。それでも、まだ、それは軽症のうち。重症化すると発汗、吐き気や眩暈、それらが落ち着いても頭痛が何日も続くこともあります。それもそのはず、カバキコマチグモの毒は神経毒の種類ですから。  いずれにせよ、母グモは、卵が孵る10日ほどの間、子どもに危険が迫ると全力で戦います。そして、孵化した子どもたちは、1回目の脱皮を終えると、隣の部屋で休んでいる母グモに、一斉に襲いかかり、母グモの体液を養分として取り込みます。なんと、母グモは、こんなときでも、敵がくれば、子どもを守るために戦うのです。子どもたちは、すべての体液を吸われて、ただの抜け殻になった母グモを置きざりにして外の世界に飛び出していきます。  そう考えると、カバキコマチグモは、名前に相応しい強くてやさしい、究極の愛にあふれた大和撫子と言えますね。Ane

前のページへ戻る