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無駄なこと? 無駄な教育

無駄なこと? 無駄な教育

 旧制の諏訪中学の名物教師三沢勝衛先生は地理の先生でしたが、「私は1時間の授業の準備に少なくとも20時間はつぎ込む」と公言し、実地調査と独創的な思考力を養うことをねらいとした教育法で知られていました。  先生自身が猛烈な勉強家であり、生涯の大きな試験十数種類をすべて一発で合格されたそうです。気性も激しく教育熱心でしたから、5回も辞表を叩き付けて諏訪中に来られたという噂もありました。  先生の授業は、旧制高校や大学の進学のための受験には直接的には全く役に立たないものでしたが、実地の調査とかスライドや写真を駆使した授業は当時としてはめずらしく、生徒には絶大な人気がありました。みんなが先生の授業時間を待ち焦がれ、授業の終わりを惜しむ伝説のような先生でした。ただ、進学に直結する授業ではありませんから、今の学生や学校としての評価だと駄目な教師、駄目な教育と言われたことでしょう。  もっとも、先生の情熱の授業を受けた生徒たちは大成し、その後の社会に貢献する有能な人材となりました。進学という一点では、すぐに役立つものではなく無駄のように見えた授業が、生徒の学習意欲や将来の方向性にまで関わる深い授業であったわけです。  余談ですが、三沢先生のあだなはイスカ(交喙)でした。イスカはアトリ科の鳥でスズメよりやや大きく、雄は暗紅色、雌は黄緑色。両くちばしは褐色で湾曲交差し、松など針葉樹の実をついばむのに適すると言われています。晩秋に日本の北部地方にやってくる渡り鳥です。「スイカの嘴(はし)」という言葉は、物事が食い違って思うようにならないたとえに使われます。

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