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原典に当たることの大切さ 生物の学名 その1

原典に当たることの大切さ 生物の学名 その1

 先日、生物の学名についての論文、太田邦昌氏著の「学名問題をめぐる我が国の惨状:40大誤謬」の別刷りをいただきました。47ページにわたるもので、戦後の出版物の学名に関する大部分の記述について、その間違いを指摘したものです。ほとんどの記述に何らかの問題箇所があると指摘されていますが、これは各著者が原典に当たらず(間違った記述の)孫引きしたことによる伝播が原因です。私も、自分の研究論文を書くときには必ず原典に当たることを前提としてきましたが、学名については基本中の基本だと思い込み、信用のおける学術図書や事典に間違いがあろうとは考えもしませんでした。今回、この別刷りの指摘を読み、用語の理解と使い方に関し感じ入るところがありましたので、自戒の意味も込めてご紹介しましょう。  動物や植物には学名がつけられています。次の記述のうち、正しいものはどれでしょう。 1)人間の学名はホモ・サピエンスである。 2)人間の学名はヒトである。 3)Drosophila melanogaster は種の学名であるがDrosophildae,Diptera,Insectaなど綱、目、科の名は学名とは言わない。 4)ヒトの学名はHomo sapiensという二語の小名からなっている。 5)ヒトの学名の種名はsapiensである。 6)イヌの学名はCanis familiaris Lと記載されているが正式には、ヒトの学名で言えばHomo sapiens L.1758 のように命名者だけでなくその年号までを正式には記載する。 7)リンネはネコやライオンとは属が違うが近いいくつかの属をまとめて科としている。 8)生物の学名はリンネがその著「自然の体系」第10版(1758)の中で「二名法」として取り上げている。 9)リンネの「自然の体系」の初版(1735)はわずか12ページの小冊子であった。 10)リンネは「自然の体系」初版でヒトを変種扱いでヨーロッパ人、アメリカ人、アジア人、そして、アフリカ人の四人種に分けている。  どうです?分かりましたか?上記の設問は、別刷りを読んだうえで私が抜粋し作成した問題です。実は、正しいのはわずかに一つ。1から8は間違いのようです。9は原著を知らない表現で問題であると著者の大田氏は指摘しています。氏によると、生物学の基本である学名についての記述の誤りは、中高程度の参考書を初め、信用の置ける生物学事典や学術書にまで及んでいます。しかし、学名は付けられた年代により国際命名規約が変更になっていることもあり。規約でなく勧告の部分がありこの部分は強制ではなく望まし命名法であるので上記の問題自体にも問題があります。

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