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「羽化抑制法」チョウはOKでもセミはダメ!?

  • 「羽化抑制法」チョウはOKでもセミはダメ!?

材料

セミの幼虫

内容

・セミの幼虫で,羽化抑制法を試す。
・セミの幼虫を冷蔵保存したりして,翌朝,羽化できる状態にして様子を見る。
・セミの幼虫は,羽化抑制法で,羽化時間のコントルールができないことが分かる。

詳細

「羽化抑制法」とは,チョウなどを冷蔵&加温処理をすることで羽化時間をコントロールし,授業時間内に羽化させて見せるという画期的な観察方法です。科学実験・原体験データベースNo.927の「アゲハ」No.850の「ジャコウアゲハ」No.611の「モンシロチョウ」No.612の「ツマグロヒョウモン」で,それぞれ手順やコツを紹介してきました。 その他にもオオムラサキでトライしましたが,失敗続きで,多くの命を無駄に失ってしまいました。 失敗の原因は,冬越しの形態の違いにあると考えています。 成功例のチョウたちは,蛹で越冬します。ですから,羽化直前の蛹を冷蔵処理しても,問題はなかったと思われます。 しかし,オオムラサキは幼虫の姿で越冬します。ですから,羽化直前の蛹を冷蔵しても,体力を消耗して羽化できなかったのだろうと考えています。 トンボ類で成功したのは,No.468の「クロスジギンヤンマ」だけでした。 トンボは幼虫(ヤゴ)で越冬するので,冷蔵処理をしても大丈夫のはずです。 羽化直前になったと判別した個体に羽化場所を与えずに,丸1日羽化抑制します。ヤゴの中では,羽化欲求が爆発的に高まった状態になります。 そのヤゴを,一晩冷蔵保存します。そして翌日の任意の時間に,羽化場所を与えて羽化させるという手順です。 材料が数多く手に入るタイリクアカネとシオカラトンボでもトライしました。しかし,なぜか羽化を我慢できず,水中で羽化して死んでしまうのでした。 ちなみに他のトンボは,ヤゴが数多く手に入らなかったので,実験していません。 数多く手に入るセミについても,羽化抑制実験をしたことがありませんでした。なぜなら羽化時期が夏休み前なので,お家の人と一緒に観察すれば良いと思っていたからです。 子どもたちに「セミの羽化」を見たことがあるか聞いてみると,2割ぐらいしか経験がありませんでした。昔は,誰もが美しい青緑っぽい羽化したてのセミの姿の美しさに感動を覚えたものですが。 そこで,授業中にセミの羽化を全員で観察し,感動的な自然の美しさを体感させたいと考えました。 まず,確保した幼虫を6℃で冷蔵保存し,羽化活動を停止させました。 翌朝,30℃以上の室温で加温し,羽化活動の再開を待ちました。しかし,時間が経っても幼虫は動き出しません。そして,そのまま死んでしまいました。 セミは幼虫の姿で越冬しますが,地中なので温度は地表より高いでしょう。つまり,低温にさらされたことがなかったので弱ってしまったのではないかと考えられます。 次のグループの12頭は,冷蔵せず羽化場所も与えず,室温で夜を明かさせました。 翌朝,3頭が羽化してしまっていました。1頭は弱りきっています。残りの8頭は,みんな動いていました。 幼虫をカーテンに掴まらせて,様子を見ることにしました。どんどん上に登っていき,それぞれ適当な場所に落ち着いたようです。 アブラゼミの幼虫の背中が割れて,羽化が始まりました。でも,どうも様子がおかしいようです。背中が割れたままで先に進みません。 力を入れて,頭部や胸部,脚部を抜こうとしているのは分かるのですが,抜けません。 驚いたことに,アブラゼミはすべて申し合わせたように,背中が割れた状態で固まってしまいました。 1頭の腹部を抜いてみましたが,頭部などは,どうしても抜けませんでした。 材料が少ないのですが,6頭のアブラゼミが全く同じ状態で全敗しました。 アブラゼミの羽化抑制は,できないと考えた方が良さそうです。 少し遅れて羽化が始まった2頭のクマゼミは,順調に羽化が進みました。1頭は少し後羽が縮れましたが,1頭は完全な形で羽化することができました。 クマゼミが羽化に成功した理由は定かではありませんが,個体として大きいためかもしれません。 いずれにしても,チョウなどよりも簡単に「羽化抑制処理」ができそうなのに,実践例が報告されていないのは,今回のようにうまくいかないことが分かっていたからではないかと思われます。 それでも実験して失敗したら,命を全く無駄にするのでは無く,No.930の昆虫食の食材として利用することをお勧めしておきます。

基本情報

分野 分野2 育てたいもの 管理番号 季節 場所 難易度 危険度
生物 生態 探究心 932
夏
山;野原;広場;
山 野原広場
普通
普通
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